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  聖夜のプレゼント


 6歳の娘がクリスマスの数日前から欲しいものを手紙に書いて窓際に置いていた。
 早速夫とキティちゃんの便箋を破らないようにして手紙を覗いてみたら、こう書いてあった。
 「サンタさんへ おとうさんのガンがなおるくすりをください! おねがいします」
 夫と顔を見合わせて苦笑いしたけれど、私はだんだん悲しくなって少し泣いた。
 昨日の夜、娘が眠ったあと、夫は娘が好きなプリキュアのキャラクター人形と「ガンがなおるおくすり」と普通の粉薬の袋に書いたものを置いておいた。
 朝、娘が起きるとプリキュアの人形もだけれど、それ以上に薬を喜んで「ギャーっ!」と嬉しい叫びを上げていた。
 すぐに朝食を食べる夫の元に走って行き、「ねえ! サンタさんからお父さんのガンが治る薬貰ったの! 早く飲んで! 飲んで!」といって、夫に薬を飲ませる。
 夫が「お! 体の調子が、だんだんと良くなってきたみたいだ」と言うと、娘は「ああ! 良かった~。これでお父さんとまた、山にハイキングに行ったり、動物園に行ったり、運動会に参加したりできるね」と言う。すると夫がだんだんと顔を悲しく歪めて、それから声を押し殺すようにして「ぐっ、ぐっ」と泣き始めた。
 私も貰い泣きしそうになったけれどなんとか泣かないように鍋の味噌汁をオタマで掬って無理やり飲み込んで態勢を整えた。
 夫は娘に「薬の効き目で涙が出てるんだ」と言い訳をしていた。
 その後、娘が近所の子に家にプリキュアの人形を持って遊びに行った後、夫が「来年はお前がサンタさんだな……。しっかり頼むぞ」と言ったので、私の涙腺が緩んでしまい大声で泣いた。
 お椀の味噌汁に涙がいくつも混ざった。


  娘が雇い主


仕事が忙しいばかりで安月給の私は、今日も疲れきった体を引きずるように帰宅した。
すると、5歳になる娘がドアのところで待っていた。
時間は午後11時過ぎ。私は驚いて言った。
「まだ起きていたのか。もう遅いから早く寝なさい」
「お父さん。寝る前に聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「お父さんは、1時間にいくらお金を稼ぐの?」
「お前には関係ないことだ」
疲れている私はイライラして言った。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「どうしても知りたいだけなの。1時間にいくらなの?」 娘は嘆願した。
「あまり給料は良くない。2千円くらいだな。ただし残業代はない」
「わあ、すごい! ねえ。お父さん。私に千円貸してくれない?」 そう娘は言った。
「なんだって?」 疲れていた私は激昂した。
「お前が何不自由なく暮らすために私は働いているんだ。それが金が欲しいだなんて……だめだ! 早く部屋に行って寝なさい!」
娘は、黙って自分の部屋に行った。
しばらくして、私は後悔し始めた。
少し厳しく叱りすぎたかもしれない。娘はどうしても買わなくちゃならないものがあったのだろう。
最近、忙しくて娘にかまってあげられなかった自分にも腹がたっていた。
それに、今まで娘がそんなに何かをねだったことは一度もなかった。
私は、娘の部屋に行くと、そっとドアを開けた。
「もう、寝た?」 私は小さな声で言った。
「ううん。お父さん」 ベッドの中から娘の声がした。少し泣いているようだ。
「今日は長いこと働いていたし、ちょっとイライラしてたんだ、ごめんね。……ほら、お前の千円だよ」
娘は、ベットから起きあがって、顔を輝かせた。
「ありがとう。お父さん!」
そして、小さな手を枕の下に入れると、数枚の硬貨を取り出した。
私はちょっとびっくりして言った。
「おいおい。もういくらか持ってるじゃないか」
「だって足りなかったんだもん。でももう足りたよ」
そして、千円札と硬貨を私の前に差しのべて言った
「お父さん。私、2千円持ってるの。これでお父さんの1時間を買えるよね?」

▼泣いた

▽現実には嫁に千円渡されて「晩御飯食べてから帰ってきてくれる?」と言われる。
▼もっと泣けた。

○私なんて500円だ……
▼もう涙で前が見えない(ToT)


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